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zoom RSS 御来光、そして作られた感動

<<   作成日時 : 2013/09/13 23:50   >>

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この夏、仕事で生まれて初めて富士山に登った。
テレビ番組用に、富士山頂からの御来光を撮影し、
それを眺める登山客から感動のコメントをもらうという使命を持って。

スタッフは、僕とアシスタントのふたり。
僕はビデオカメラを、アシスタントは三脚を持ち、吉田口五合目を昼に出発。
六時間かけて登り、本八合目の山小屋に到着した頃には、夜の21時。
何十人もの人間が、隣と肩が触れ合うような距離で、
市場のマグロのように隙間なく詰め込まれ、
ほとんど眠ることもできず早朝2時に出発。
重い荷物を抱え寒さに震えながらおよそ3時間また登って
ようやく辿り着いた頂上で見た御来光は、確かに美しかったが、
そこまでの苦労に見合うほど大層なものではなかった。

画像











御来光を見て「世界観が変わった」と言う人がいる。
実際に見るまでは心のどこかで同じことを期待していた。
でも、まったく嘘だった。
思うに、そんな人にはもともと
「世界観」と呼べるようなものなどなかった。
そして、おそらく今もないはずだ。

けれども僕の目的は、富士山の魅力を伝えるための番組を作ることだ。
頂上で登山客に声をかけ、いいコメントをもらうため適当な人を探しまわった結果、
ようやく一人の登山好きのおじさんが語ってくれた。
「登るときは辛くてもう二度と登るものかと思うけど、
 御来光を見ると全てが報われたような気がするから
 また登りたくなるんだ」
と。
僕のロケは、このおじさんの言葉によって報われた。
何より番組的には、すごくいいコメントだったからだ。

かつてプライベートの旅行で宮島に初めて行ったとき、
地元のラジオ局か何かにコメントを求められたことがある。
そのときは台風の直後で、訪れた厳島神社は大破していた。
屋根はひん曲がって崩れ落ち、廊下の板が地面に転がっている。
そんな様子を、友達と2人でカメラで撮りまくっていたところへ
ラジオ局の取材班が3人ぐらいでやって来て、
「せっかく来て厳島神社がこんな状態だがどう思うか?」と聞いてきたのだ。
僕は正直に答えた。
「こんな厳島神社を見られる機会も滅多にないので、すごく嬉しいですね」
完成された厳島神社は行けばすぐに見られるが、
大破した厳島神社を見られることなど、一生のうちで何度もあるものではない。
これを幸運と言わずしてなんと言うのか。
けれども、ラジオ局のスタッフは困惑し、早々にその場を去っていったのだった。
その理由が今ならわかる。

本当のことを言えば、
富士山頂でインタビューしたおじさんも、
最初は「しんどかったです」としか言っていなかった。
それでは番組に使えない。
だから僕は頑張って、
「僕もここまでむちゃくちゃしんどかったんですが、
御来光見て心洗われたんですよ。
そんなところないですか?」
と心にもないことを言って、誘導したのであった。

テレビが与える感動は、このように、大なり小なり作られたものだ。
昔からずっと変わらず、そしてそれほどパターンの多くない
感動のフォーマットに落とし込む途中で、少数の偏屈な意見は削られていく。

そのことに対する釈然としない思いが、今もずっと僕の中にはある。


(追記)
下山し始めた途端、山は霧に覆われて、
10メートル先も見えない状態でひたすら下りることになった。
僕にとってはその方がよっぽどスリルがあって面白い経験だった。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
世界観のくだりが面白い!

数年目に俺も富士山登頂して御来光見たが、
そんな疲れが報われるほどの感動は無かった気がする。。
下山したときの達成感(もう歩かんでいいという安堵感)は
格別やったな〜。

テレビ番組の舞台裏の話は興味深いっす。
ハウステンボス
2013/09/23 19:27
>ハウステンボス
そやんなぁ。
雲海とか綺麗やけど、しんどさの方が大きいよね。

登ってる途中から、また同じ分だけ下りないと帰れへんということに気付いてゾッとし続けてたわ。
thin1
2013/09/27 23:52

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