君も僕もポーカーフェイス2 (言語と芸術のサロン)

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<<   作成日時 : 2011/11/01 04:28   >>

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その40がらみの運転手は、
きっと心にいろんな鬱屈を溜め込んでいたに違いない。

極度に内向的な人間が、にわかの社交術を覚えたような
とってつけたような丁寧さが不気味な印象を与える男だった。
目的地を告げると、説明して乗客を安心させる為か、自分に言い聞かせる為か、
何街道を通って、セブンイレブンの角を右に曲がってどうのこうのと、
目的地までの順路を全部言いきってから走り始めた。
道順など僕にはさっぱりわからないから、
まあよろしくお願いしますなどと答えて適当に任せて、
ほかのことを考え始めた。
それ以上とても話す気にならなかった。

しかし、走り出した途端に平静ではいられなくなった。
彼は、国道をやたらとスピードを出し、必要以上に車間距離をつめて走る。
そのときから、嫌な予感はしていた。

時は夕暮れ。
車は、麻布の住宅街の細い道へ入って行き、
そこでも速度を緩めることなく国道と同じような速度で走っていく。
とそこへ、前方の右の脇道から白のBMWが合流してきて、
我々が向かっているのと同じ方へ右折した。
BMWがそのまま走り去れば良かったが、
近辺の目的地を探しているのか、のろのろと進む。
タクシーは、たちまち追いついてしまった。

運転手は当然のごとく車間距離をギリギリまでつめて、
速度を上げては距離を縮め、
当たるか当たらないかギリギリのところで
ブレーキを踏んで少し離れるのを繰り返してあおりまくる。
すると、BMWが突然急停車した。

BMWから降りてきたのは、
生地の良さそうなジャージを着た見るからにヤンキーの男。
こちらに向かって歩いてきて、運転席の窓ガラスを叩いた。
運転手は微かに舌打ちした。
なおも叩かれるので、仕方なさそうにウィンドウを開けた。
「おい、文句あんのかおっさん」
まだウィンドウが開ききらないうちにヤンキーが吠えた。

けれども運転手は場違いにとぼけた調子で、
「なんですか?」
と答えたものだから、さらに怒りを買った。
「なんですかじゃねえよ。あおってただろうが、今」
「あおってないですよ」
「危ねえだろう、どんなスピードで走ってんだよ」
「急いでましたもんで」
運転手はあくまで平然と答える。
それがヤンキーに我慢の限界を越えさせた。
「危ねえだろうって言ってんだよ。おい、降りろこの野郎。」
もう引き返せない状態になってしまった。
運転手の口から、予想だにしない台詞が飛び出したのはそのときだった。
「私はね、急いでるんですよ。
お客様が病気なんですよ!


「は?!」という間もないほど素早く、
ヤンキーが、射抜くような視線を僕に向けた。
どういうわけか突然僕にスポットライトが浴びせられたのだ。

僕にできることはひとつしかなかった。
何の病気なのか考える間もなく、
突如思い出したようにおなかをさすり、
「・・・ええ・・・すいません・・・」
と喉の奥からうめくように声を出したのだった。

ヤンキーは僕の目をまじまじと見た。
ちょうどそれは熊に襲われたときの死んだふりと同じようなものだった。
今後の展開が僕の演技にかかっていた。
けれども僕には熊に襲われる筋合いなんかどこにもないのだ。
やりながらバカバカしくて笑ってしまいそうになり、
ヤンキーから目線を外して俯いた。
すると、それが苦しくてたまらないという演技に見えたのかどうなのか知らないが、
ヤンキーはきっと普段は優しい人だったに違いない、
少しの逡巡のあと、「先に行けよ、馬鹿野郎!」と去って行ったのだった。

ヤンキーは再びBMWに乗り込み、近くの脇道へ入っていった。
タクシーは空いた道を走り出し、そうしてしばらく進んだころ、
運転手がバックミラー越しに僕に向かって、
癇に障る例の平然とした口調で、ぼそっと呟いた。
「ああいう人、たまにいるんですよ。困りますよね・・・。」

お前じゃ!!!!

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