君も僕もポーカーフェイス2 (言語と芸術のサロン)

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zoom RSS 世直し気取りの女

<<   作成日時 : 2010/04/10 02:59   >>

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「足を開きすぎなんだ馬鹿野郎!」
夜、田舎の電車に乗っていたら、
突然、女の大声が車内に響き渡ったのでびっくりした。

声の主は、黒いポンチョのようなものをまとった細身の女性。
栄養失調かと思われるような痩せこけた顔をし、
一見して、どこかの新興宗教にでも入っているかような不穏な佇まいのその女は、乗客で埋まった長いシートの中央あたりに座っていた。
そこで、隣に座るおっさんが幅を取りすぎているのが気に食わなかったらしい。

「足を開きすぎなんだ馬鹿野郎!」と、
静かな車内で、彼女は突然フルスロットルの大声。
「なんでみんな座りたいのにお前はカバンを足の間に挟んでるんだ!ここまでが線だろう!この線を越えるな!」
彼女の頭の中には、人間1人が座るときどれくらいのスペースが妥当かという明確なイメージがあって、それを「線」と言っているらしかった。
表現がやけに子供じみている気もするが、
当のおっさんは確かに幅を取りすぎていた。

車内には、吊り革に掴まっている人もちらほらいたから、
確かに座りたいと思っている人も多かっただろう。僕もそうだ。
だから彼女の言い分は間違っちゃいない。
間違っちゃいないが、
それしきのことでここまで怒りを露わにするのは正常な人間じゃない。
たぶん乗客は誰一人として、
彼女が自分の思いを代弁してくれたと思ってはおらず、
ただ、その剣幕で居心地が悪くなっただけだった。

何駅か後でおっさんが降りたが、
当然ながら、誰もそこに座ろうとはしなかった。

次に席を埋めたのは、
そんな事情など知らずに乗ってきた、
さっきと同じように中年のおっさんだ。
今度はかなり遠慮がちに空いたスペースに腰を埋めたかに見えたが、
女にしてみればそれも不合格だったのだろう。
またもや激昂。
「線を出るなよ!ここが線だよ!わかんねえのか!」

他の乗客も、これではっきりわかったはずだ。
この人、頭おかしい。
というのも、彼女の「線」が示す範囲は、
明らかにさっきよりも狭くなっていて、
もはやそのおっさんが座れる範囲ではなくなっていたのだから。
彼は特別太っていたわけでもないし、それ以上細くなることなどできるわけがない。

おっさんもすぐに事情を察したのか、そこで言い返すことはせず、
「はあ」と言いながら少し詰める素振りをして何駅か過ぎたが、
言われっぱなしでは気持ちが収まらなかったらしく、
自分が降りるとき、嘲笑混じりに聞いた。
「線、出てましたかねえ?」
それがさらに彼女の怒りを買った。
「出てたよ!」

「はあ・・・」

「はあ・・・じゃねえよ!
人の迷惑考えろ!


遂に出てしまったその台詞で車内は一瞬ざわっとし、
今まで何の関わりもなく吊革を持って立っていた青年がたまらず叫んだ。
「お前だよ!」

それは、見事に乗客全員の思いを代表する一声。
拍手喝采。スタンディングオーベーション。

それ以降彼女はおとなしくなり、
隣に誰かが座っても「線」の話を持ちかけることはなく、ただぶつぶつと怨念のようなものを口から漏らすだけになった。
それにしても、彼女は一体何人の人にこの「世直し」を吹っかけているのだろう。

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